輝く挑戦者をインタビューする新企画:Work of Trigger(ワークオブトリガー)
仕事で輝いている人たちは、これまでにどういうきっかけがあって、今いる場所にいるのか。インタビューから探っていき、オリジナルな言葉を引き出せたら、「今、変わりたい」と願っている人たちの助けになるかもしれない。そんな意図から発信した新企画です。
今回は、東京を中心に小中学生向けにプログラミング教室を開いている、株式会社LX DESIGN(エルエックスデザイン)代表取締役社長の金谷智さんに直撃しました。金谷さんが現在の仕事に就いたキッカケは、出会った人たちにありました。
「先生やるわ」って言ったら、「なんで?」
僕は、家が学校の先生ばかりなんです。4代や5代上までみんな先生なので、僕も学校の先生になりたかったんです。
ですが、高校時代に自分がリスペクトしている同世代の人たちと「将来何になるの」みたいな話になって、「先生やるわ」って言ったら、「なんで?」って言われました。「何でもなれるやん俺ら」って言われて。
「なんで?」って、なんで言われるんだろうと考えて。いい仕事なのに。僕は両親から愛されて育ったと思ってるので、「両親の仕事はすごいいい仕事だな」と考えていました。両親の仕事くらい良い仕事がしたい、みたいな夢がありました。なのに、なかなか温度差があるじゃないですか、同世代と僕とで。僕は先生はすごい良い仕事だと思ってて。なんでこんなにも温度差があるのだろうって。「なんで?」って言われた時に、学校の先生って意外とみんながなりたい仕事じゃないんだと思いました。
――そこで初めて気づかれたと?
そうです、びっくりしました。昔は学校の先生の家に、感謝の品が届いたりとか、お正月には挨拶で家の外まで列ができていたくらいなのに。まあ、富山だからかもしれないですけど。
――金谷さんのご両親が?
いえ、祖父以前ですね。両親の場合は、そういう場面を見たことがないですね。昔はそういうのもあったらしいという、まあ言い伝えみたいなレベルですが。だから「時代が変わっちゃったんだろうな」っていうことが分かってたんです。
学校の先生以外の世界に視野を広げないと、先生としても視野が狭いし大成しないなと考えました。狭い視野で子どもたちに向き合っても、あらゆる可能性のなかから、その子にぴったりの導きはしてあげられないということを思っていて。だから、大学に入ったときは「学校の先生になりたい」みたいなピュアな気持ちとは少し違っていて、どうしたら超一流になれるのかなと。同級生と同じことをやっていても、そうはなれないということは分かっていました。
母親の言葉
僕の母親は小学校の先生なのですが、「学校の先生以外の仕事や体験や時間がすべて、学校の先生をやったときに活きるよ」と言っていて。「なるほど!」と思いました。いろいろな世界を見たほうがいいと思って、海外留学などをしました。その後、富山に帰ってきたときに、留学代理店の社長が「富山が地元の経営者の友達がいるから会わせてあげる」と言って、その方と3人でお茶させていただいて。そこでその経営者の方から「さとしくん来なさい」と言われました。僕は「はい」って。
そして、初めてあるプロジェクトをやることになりました。そこで学校の先生以外の仕事を知り、その時に気づいたのが、「僕の人生は、出会っていく人たちの幅や素敵さを求めているのかな」ということでした。母親の言葉がキッカケで気づけました。そう思うと、母が意外と大きなきっかけになってますね(笑)。
高岡高校進学のキッカケも母親です。僕の両親も出身なのですが、高岡高校に入るときは、「高岡高校に行くと今いる友達よりももっと面白くて、もっと賢くて、もっと優しくて、もっと頑張っている人達に会えるよ」、という母親からのプレゼンがあったんですよ。僕にはそれが、ズコーン!って刺さって、「だったら行きたい」となって、高岡高校に進学しました。
――もっと面白い人に会えるということですね。
そうです。そういう人に会い続けられる人生になったらいいな、みたいな気持ちで。だから、大学時代に企業で働かせてもらった時は、学校の先生ではない人たちといろんなことをやりました。そこで出会いの幅が広がるのが分かりましたね。それと、経営者の方々に営業でプレゼンしに行ったりする中で、経営者の想いに触れることがたくさんあって、「こんな想いを持って仕事をしている人達がいるんだ」と。その想いに感動しました。「これって学校の現場にもっと持ち込まないといけないよな」と思って、自分がさらにもっといろんな仕事、世界を知らなきゃならないことを知り、それで大学時代に学校の先生以外の仕事を真剣に調べ始めましたね。
――具体的にいつ頃ぐらいですか?
大学2年生とかですかね。その時期がなかったら、先生をやってたと思います。
いろいろと導きをしていただいた富山の印刷会社の社長さんがいらっしゃって、その方にこの前会いにいったんです。そしたら、10年間で会社も大きくなってて、今中国にも事業展開されているみたいで。「大きくなったね!」って言ってもらえました。いい大人に出会えたんだと思うんですよね。18歳だった僕に起業を知る機会を与えてくれて。まだまだこれからですが、僕が今チャレンジしている姿を見せれた。母親も含めて、いい大人に出会えたんだと思います。
2つのゴール
今後のゴールは2つあると思います。まず、自分より若い世代に良いインパクトを与えること。もう一つは、自己実現です。学校の先生になるよりも、自分がいろいろな世界を経験したり、いろんな人たちに会うということです。自分がいろんな世界に首を突っ込んでいくことで、若い世代に共有できるものも増えると思います。
――いつごろからその想いを抱きましたか?
整理できたのは、大学生の終わりくらいだと思います。
教室から「小さい起業」
学校の先生って、自分よりも若い世代を支援するのが仕事ですよね。それは、自分自身も一緒に夢を描いて、一緒に叶えにいくみたいなことなのかなって。そんな仕事をもっとスケールを大きくやれるんだったら、それでいいじゃん、って。だから、今小中学生向けにプログラミング教室やってるんですけど、「エンジニア育てているんですか」とか「コード書けるようにしたいんですか」って言われるんですけど、でもそれって若干浅い気がしていて。もちろん、そういうサービスを提供して、「自分がワンちゃんが好きだから、ワンちゃんの紹介サイトを作ります」みたいなのことがとりあえずは最初だと思うんです。ですが、段々と突き詰めていくと、誰のために作るのか、誰がこれを喜ぶのか、ということで。つまり、誰かの課題を自分のできることで解決するという、「小さい起業」につながっていくじゃないですか。
だから、僕らが提供するのはプログラミング教育という活動ではありますが、そのなかで、自分で事業を作るとか、なんのためにサービス作るのかを考えるとか、自分が正義だと定める世界に対して自分たちのできることでアクションを起こすとか。それが大事だと思っていて。今、個が活躍する時代とか、自分で自分の人生を切り開いていくとか、自分でキャリアを形成するとか、言葉では言うんですが、みんな「小さい起業」をしたことがない。だから、なかなか言葉通りにはできないと思っていて。
――なるほど。
自分の母親が自分のアプリを使って喜んでた、その母親の友達もそれを使って喜んでいた、それでアプリが段々と盛り上がっていった……、それってもう一つの起業なわけですよね。
そういう経験をしたことがあって、その上で「面白かった」「楽しかった」と思えるような子だったら、能力が増えた先には、いろんなアプリを誰かのために作りたいとか、サービスを作りたいって絶対になると思います。
今の日本で言う、エンジニア不足などの表面的な課題以前に、もっと根源的な課題を解決できるんじゃないかなと思ってます。例えば、雇用を作れる人が少ないとか、仕事を自分たちで生み出せないとか、グローバルで活躍できる人が少ないとか、チャレンジする人が少ないとか、そういう課題です。
「事業づくり」にハマる
僕らが今目指していることは、自分たちの教室に通ってる子たちのなかで「事業づくり」にハマる子たちを輩出すること。「事業づくり」ハマっていく子たちが増えていくと、あとは強いというか。やんなきゃいけないからやっているよりかは、趣味としてハマって、それが本当にライフワークになっていくようなことができる環境はもうすでにあって。
僕は元々小学校の教員なんですけど、学校のなかでは、そのシステムのなかで当てはめれるところに当てはめていくような苦しさもある気がしていて。ただ、やはり仕組み上うまく実現できていなかったりとか、時代に合ってなかったりとかすることも多い気がしています。その頑張る時間を彼らにとって良いものに、子どもたちのためにも良いものにしたいという想いがすごいあって。じゃあ僕らにできることは、例えば、学校で60年続いているシステムにはハマらないけど、放課後にやってるこの授業のクラスにハマれるとか。サービス作りにハマれるとか。アプリ作りにハマれるとか。っていう、なにか面白くてハマれて、それで人生が変わっていくようなものに、一つでも多く出会わせてあげることなのかなと思います。
そんなふうにでサービスをやっています。僕は大学時代にサンフランシスコのシリコンバレーに行って、そこでFacebookの中に首を突っ込んだら、全然世界が違いました。3歳からパソコン触ってるとか。小学生からプログラミングやってたとか言われると、もう「え~」みたいな(笑)。「そんなの知らなかった」って。でも、それは機会がないからやってないだけですよね。
――向こうの子は、日本でいう鍵盤ハーモニカにハマるのではなくて、プログラミングにハマるみたいな(笑)
鍵盤ハーモニカに今ハマってるけど、プログラミングにも同時にハマってるとかカッコいいですよね(笑)今日は、「猫踏んじゃった」が弾けるようになって、それと「おみくじアプリ」が作れましたみたいな。「いい一日じゃん!」みたいな(笑)。ただ、これからの時代的には鍵盤ハーモニカにハマって人生変わる確率より、誰かのためにサービス作って人生変わるほうが、あるかもしれないですよね。
ハマれる選択肢をいっぱい提供してあげたほうがいいと思っていて。バドミントンとかスポーツにハマれるのもよしで、……本当に没頭できる何かを提供してあげたい。ハマれない子をハメようとするとすごいしんどいですよね。学校の先生をやっていて、すごい思うんですけど。40人いたら、絶対40人とも同じものにハマらせられないじゃないですか。だから、僕はどちらかというとあまり無理にハメさせるのはできなくて。でも、それが躾だとか、学級経営力とか、先生の技だ、とかっていう先生もいっぱいいるから、間違いではないと思うんですけど、僕はあまりナチュラルではないと思います。そういうやり方よりは、僕の好きなもので共有できるものがあったらいいなと思っています。
10年間での変化
今、プログラミング教育を東京でやっているんですけど、来年度からは地元の富山や福岡、四国、東北などでも始まったりして。思うのが、僕富山を出て10年経つんですが、富山の子たちって、10年前と学習環境はほとんど変わってないと思っています。僕はたまたまご縁をいただいて、海外行ったりITの世界を見たり、起業したり、そういういろいろな経験をして富山に戻った時に10年前とまったく変わらない景色がそこには広がっていた。だから、機会があれば伸びる子がいるっていうのと逆の考えで、機会がないから伸びない子たちがたくさんいて、機会さえ提供できれば、みたいなふうに思うんです。それってすごい情報格差がある。機会格差がある。機会の平等は絶対担保するべきだし、それは正義だと思います。だから、結果の平等はやむを得ないけれど、機会は少なくとも提供するべきだし、それを富山の子たちにやってあげられたら、と。
出会いに「ありがとう!」
うちのスクールにアシスタントティーチャーとして手伝いに来てくれる教育学部の子たちがいて、彼らは学校教育の中で、これから必要となるプログラミングという領域で今実践を積んでいます。「自分たちはこういう実践を積んできた」というある種の自信とか、「こういうことだったら貢献できますよ」みたいなものを打ち出して、先生になっていくので、自己肯定感が高く担保されてます。
学校の先生ってすごい専門性の高い仕事だから、人間力とかで勝負できる場ではないです。たくさんの子ども見てきたデータベースを持ってるほうが強いし、その子の発達段階を分かってあげれる知識を持ったほうがいい、と考えると、やはり40歳年上の先生が言っていることのほうが正しかったりすることが多くて。新卒1年目なんて、「言われたことを正しくやりなさい」みたいな、どうしてもそうなりがちです。でも、それじゃ物足りないなって思う子たちがやっぱりいる気がしてて、そういう子たちに楽しく学校の先生をやれる武器を授けてあげたいなと。それがアシスタントティーチャーの経験です。
それと、僕もそうなのですが、学校の先生たちって学校の先生になることが夢だったりして、仕事の手段じゃなくて、そこで良い授業をしてあげたいとか良いクラスを作りたいとか、それ自体が夢になっていて、すごくカッコいいと思います。だから、やっぱり学校の先生って良い仕事だと思ってるし、そういう人たちをすごい応援したいというか。その夢を叶える手伝いもしたいです。
学校の先生をやることで将来本を書きたいとか、さらに上のステップに進みたいとかではなくて、とにかくいいクラスを作りたいというような想い。そこにピュアさと夢みたいなものがあって、もう全面的に応援したいんです。だから、プログラミング教育を子どもたちに向けてやっているなかに、今ではいろいろな要素が入ってきていて、学校の先生たちや教育学部の人たちに対するキャリア支援とか、地方創生とか、地方で雇用を作るとかが周辺にはあって。すごい使命感持ててやれて嬉しいなって。
まさか10年前に、起業のまねごとを始めた時に、こんなことになるとは思ってなかったですね(笑)本当にその時の出会いと、それをチョイスできた環境に感謝です。
株式会社LX DESIGN 金谷智代表 Facebookページ
起業家インタビューメディアTACHIAGE でライターとしても活躍中
南山大学人文学部日本文化学科卒業。大学在学中にインターン生として名古屋のベンチャー企業にて広報を担当し、インタビュー・イベントレポート等を手掛ける。また、ライターとして経済雑誌「株主手帳」にて、名古屋の上場企業の社長インタビュー企画に加わり記事を執筆。インバウンド客向けに日本の文化・観光情報等を扱うメディアにて、名古屋・大阪地域担当を務める。
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